#33 法律相談センターについて常議員会で特別報告をいたしました。
2024.10.14
10月8日の常議員会で「法律相談事業の現状と課題」と題して特別報告を行いましたので、共有させていただきます。一応、真面目に会務に取り組んでおります。
これは11月から「法律相談料2000円キャンペーン」をするにあたって、なぜこれをやるのかについて、情報をきちんと会員に共有させていただくべきとの考えに端を発しています。安直なキャンペーンはダメ!というご批判もあろうかと思いますが、いろいろ考えてやっているというところまではわかっていただいて、それでもダメというのはそれはそれで受け止めないといけないな、と思っています。
実は、時を同じくして、e相談のサーバ移行に伴う投資の可否について、情報センターから「法律相談センターの事業全体をどうしていくのかを示して欲しい」とのご要望もあり、単年度理事者として舵取りは非常に難しいのですが、せめて現状をお示しして、皆さんの思考のきっかけにしていただければとの思いで、事務局からさまざまなデータ提供をいただき、いくつかの視点を設定し、自分でパワポを作りました。
以下、常議員会報告を多少端折りますが、ほぼ話したことそのままを掲載させていただきます。一応、常議員会では、議論の喚起につながり、非常に建設的なご意見をいろいろといただくことができ、私も結構時間をかけて準備したのでやった甲斐があったと感じました。
法友の先生方にも状況を認識していただき、ご意見をいただければ、と思っています。
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常議員会特別報告として、「法律相談センターの現状と課題」と題しまして、現状の相談センターの相談件数や事業の収支などの情報を提供させていただき、今取り組んでいる課題についてお話ししたいと思います。
今回このような形でご報告させていただくことにしたのは、11月実施を予定している法律相談料2000円キャンペーンについてご説明しておきたいというのが一番ですが、実は相談センターにはたくさんの課題がありまして、意思決定にあたっては、今後相談センターがどうあるべきかという根本的な価値観や事業の全体像中での位置付けを踏まえて決するべきであると考えております。
センターの業務は非常に広範囲にわたっており、会員の業務や会の財政負担にも大きく関わってくることですので、会員に現状を認識していただき、諸種のご意見を賜りたいと考えて詳かにするものです。なお、今後、相談センターにおいて、正副委員長会議で中長期的な課題について集中して議論を行なっていくことになっており、今回の報告は未だ相談センターでオーソライズされたものではない内容も含んでおりますので、その点ご留意願います。
(スライド2)
前提事項を確認します。
センターの現状と外的要因や環境要因を挙げています。
1点目、市役所における無料相談に弁護士を派遣する委託契約が大阪府内のほとんどの自治体との間で締結されています。
2点目、相談は長期的に減少傾向です。古くは3万件あった時代もありますが、この間、社会や弁護士の有り様も大きく変化していますので、(特にH18年以前は法テラスがないため)20年遡ってしまうとあまり参考にならないと考えて考慮要素から省いています。コロナ前の10年間を見ると、H21からH25の5年間で1万件減少、H26からH30の5年間で3000件減少し、この10年間で約60%ダウンしています。
3点目、拡充のためにいろいろと取り組んでいます。後に報告しますが、1000円キャンペーンも相当件数回復に寄与しています。今年度は予約サイトで相談枠を担当する弁護士の情報を見て選べるように改修し、市民のニーズを探っていきます。
4点目、不採算であったり、相対的に効果の低いメニューについては、適宜洗い出して廃止も検討しています。今年度は、巡回相談を廃止しています。
弁護士会の外の状況や環境は、書いてある通り、ネットで個々の弁護士へのアクセスが容易になったこと、個々の会員が初回無料相談などを取り入れていること、民事・行政訴訟の新受件数が減少していることが挙げられます。ただ、後にあげますが、家事事件は増加傾向にあり、弁護士関与の必要な事件は保たれているように思います。
(スライド6)
市民の利用する公的な相談、という括りで、法テラス、自治体、弁護士の相談センターの相談件数を立て積みにしてH15から21年間分を並べてみました。75000件ラインに補助線を引いていますが、実は、法テラスと自治体の件数の合計は65000件程度から長く動いていません。相談センターの相談件数だけが減少しています。コロナの影響を抜きにして、コロナ前の10年間で長期的に減少が続き、10年間で60%近く減少している、ということです。
なお、ここでは、センターの相談件数に、法テラスの指定相談場所としての相談件数、無料相談等のイベント時の相談件数は入れておりません(1000円キャンペーンは11月12月の通常相談として実施しているため計上しています。)。
(スライド7)
さきほどは積み上げでしたが、今度は各種相談の件数を折線で示しています。H21とH 22のあたりで法テラスの相談件数が相談センターを超えていますが、そこから真横に補助線を引いてみると、H22以降は、仮に法律相談需要に変化がないと仮定した場合、法テラスに相談を取られているわけではなく、相談センターが相談件数を落としていると推認されます。
(スライド8)
司法統計(民事と家事の合計)との比較をしてみました。訴訟等の法的紛争との比較ですので、市民からの弁護士ニーズという趣旨で比較することとし、法律相談だけではなく法律相談と事件紹介を足し算した数をもとにいています (ただし、統計には私選紹介も入っています。)。コロナ前かつ10000件に近似したH29を1とした場合の対数を表の右端から3列目と4列目に配しています。表の右端とその前の列では、前年比の増減を表しています。R2に落ち切ったからということもありますが、ここ3年は司法統計の伸び代よりも大きく相談センターの需要が上がっています。
(スライド9)
今度は全国の弁護士会の法律相談との比較です。大阪以外の主要な都道府県の相談件数の推移を、いずれもH29を1とした場合の変化を見られるようにしました。他の地域も少しずつ落ちてはいますが、オレンジ線の大阪の落ち方と回復の伸びの悪さが見えます。R5に大きく改善しているのは、1000円キャンペーンの影響だと思われます。
(スライド10)
会館、サテライトの相談件数の10年の推移です。
(スライド11)
相談件数全体に占めるサテライトのシェアのグラフです。会館相談の存在感が落ち、なんばの占める割合が増えています。
(スライド12)
自治体相談と相談センターの比較です。自治体は相談数は5倍近く多いですが、受任数は似たような数字ですから、相談センターの相談の受任の確度は自治体の5倍ということです。右の大阪の地図で黄色く塗りつぶしたところがR7年度も委託契約未締結の自治体ということです。水色の泉南市は来年度委託契約締結見込みです。
(スライド13)
こちらは、相談センターの担い手に関するデータです。相談センターの法律相談の割当てを受けている会員を5期刻みで集計してみたところ、左側の一番上のグラフのようになりました。一番下のグラフが当会会員の5期ごとの期別の構成比ですので、当会会員の構成比以上に、センターの割り当てを受けている会員のうち56期以降の会員が占める割合が多い、つまり、登録20年以内の会員が相談センターの相談業務を支えているということがわかります。
右の棒グラフは、5期ごとに相談センターの組織率、実際に相談配てんを受けている会員の率を横に並べたものになります。56−60期の会員の実に80.5%が相談センターに登録しています。40期あたりでも、未だ半数の会員が登録していただいています。
(スライド14)
相談料収入の推移です。ミカタ社の電話相談の収入が一番大きくなっています。厳密には委託料収入なのですが、状況を示すために入れています。会館の相談料収入は以前は1000万円以上あったのですが、令和2年にガクッと下がっています。今は600万円台です。
(スライド15)
相談場所ごとにH26から10年間の相談料収入と相談件数をグラフにしてミックスしてみました。青色の折れ線(相談収入)とオレンジの折れ線(相談件数)が同じ動きをしているか、乖離しているかで、件数と収入のずれを認識できます。オレンジの線が上がっているのに青の線が上がっていない場合は有料相談の率が下がっていることを意味します(ただし法テラス指定相談場所の相談件数は除いています。)。
(スライド16)
サテライトごとの収支です。サテライトについては賃料などの運営費がありますし、今に始まったことではなく、継続的に赤字ではあります。ただ、後に挙げますが、相談センターの存在意義として、市民に対する法的なインフラ(裁判所の所在地となんばという交通の利便性の高い場所に展開しています)であったり、会員の受任機会の提供や若手のOJTという面がありますし、事業として採算が悪いから閉鎖する、という話にはならないと理解しています。「参考」の欄に、受任件数やそれによる会員が得ている収入推計額や受任による負担金会費収入推計額を挙げております。
たとえば、なんばは、1500万円ほどの赤字になっていますが、会員への還元という意味では、相談日当として640万円が出ていますし、ここを受任機会として7460万円程度の弁護士報酬が発生していると推計されます。また、当会に対して事件を通じての負担金会費収入が520万円程度あります。
(スライド17)
会館とサテライトの受任率推移です。
以前谷町で30%あたりでしたが少し下がってきています。
(スライド18)
センター全体の受任率です。
通常時は19%程度です。無料相談時は14―15%程度です。1000円キャンペーンも同じような水準です。
(スライド19)
相談枠の埋まり具合を示す稼働率です。
予約時点では、18.4%から29%という数字です。予約が埋まっていない場合、担当弁護士にキャンセルの連絡を入れるなどして空振りにならないようご協力いただいていますが、それでも実割当は、23%から35.5%という数字です。例えば平日午後の会館相談は6コマありますが、相談は1件か2件、というような状況です。これを引き上げて3件くらいは相談を受けてもらえる状態にしないと担当弁護士もやりがいを感じにくいのではないかと思いますし、日当も効率的な支出とはいえないと感じています。相談件数を増やすことが重要になってきます。
(スライド20)
事件紹介についての現状をまとめています。相談から事件紹介にシフトすべきという考えもありますが、現状ではなかなか難しいところだと考えています。
ここからは、相談センターの施策を考えるうえで、基本的な考え方についてお話をしておきたいと思います。相談センターの事業については会員それぞれに受け止め方が異なるでしょうし、コンセンサスを得ることも難しいかもしれませんが、現時点で考えられることを挙げてみたいと思います。
(スライド22)
そもそも、弁護士会が何のために相談事業を行うのか、という相談事業の目的について、いくつか要素を挙げてみました。こうした視点を常にもって事業にあたる必要があると思っています。自治体相談があるから弁護士会の相談はいらないじゃないかという指摘がありますが、受任率に大きな違いがあり、相談内容の質や事件の成熟度の違いがあると考えられます。自治体は素朴な疑問レベルも含んでおり、センター相談はきちんと法律相談を受けたい、というようにレベルの違いがあるように思います。会員に対する受任機会の提供という面でやはり弁護士会の行う法律相談は重要な基盤といえます。また、相談センターの組織率は非常に高く、会員にとっても市民にとっても重要なプラットフォームです。最近では特に若手会員にとってのOJTの場という要素も重要になってきており、これはある程度の相談件数を確保しておくべきという考えに繋がります。
(スライド23)
相談事業のスタンスとして、挙げたようなものが考えられます。差別化志向論はどのスタンスとも両立するものだとは思います。先ほど挙げた数字と目的との関係でいえば、相談件数が回復基調にあることからも、会員の受任機会の提供やOJTの観点からも、現時点では相談件数を一定程度引き上げることを志向すべきフェーズであり、拡充努力をしてもなお頭打ちになったところで適正規模化をはかるべきではないか、と考えているところです。そのためにも、単年度理事者では判断が難しく、相談センターの事業をどうしていくべきか、中長期的な視点で見る組織が必要だと考えています。
(スライド24)
弁護士会の相談のターゲットについて、例示してみました。会員に直接アクセスする顧客層とは異なり、さまざまな理由から弁護士を主体的に選べない方が弁護士会の公共性を期待してアクセスしてこられており、十分ニーズがあるのだと思います。
(スライド25)
民業圧迫論について、弁護士会の相談事業の経済的規模から考えてみました。令和5年度の弁護士会の相談料収入は1258万円です。直接受任をされた会員による負担金会費が2350万円程度ですので、そこから7%で割り戻すと弁護士報酬が推計されます。それが3億3600万円程度で、相談料収入と合算すると、大阪弁護士会の相談事業に関連する弁護士報酬は3億5000万円程度ということになります。
自由と正義2021年臨時増刊号で「弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査報告書」というものが出ていましたのでそちらを参照して計算しましたところ、大阪の弁護士の総売上は900億円くらいであると推計されます。そうすると、センターの関与する事件の収入は大阪の弁護士全体の収入の0.37%に過ぎないことになります。また、人口878万人の大阪で、H26ころの2万件から相談件数が減少し、今や年間8000件にも満たないのですから、民業圧迫と言えるような状況にはなく、むしろ、先ほどから申し上げているような目的の達成を重視すべきであるとも言えます。
(スライド26)
相談センターの財務面についておおまかなところをお示しします。
令和5年度の決算によると、法律相談事業特別会計の事業活動収入は5億1691万円、事業活動支出が5億3411万円で、1700万円程度の支出超です。ただ、ここには、ひまわりや遺言相続センターも入っていますし、支出には会全体にかかる管理費も配賦されています。一般会計からの繰入れが2億4000万円きている一方で事件による負担金会費収入が9884万円ありますので、会計上は、1億4116万円の負担をかけていることになります。
ただ、会計的には支出ですが、日当として2億1548万円が会員に支払われ、業務を通じて会員に還元されていますし、負担金会費収入から逆算して3億3570万円(LAC含めば14億1200万円)の会員の収入の源泉になっており、受任機会の提供という要素は押さえておくべきと思います。
ここからは、短期的な課題について情報提供します。
(スライド28)
1つ目は、2000円キャンペーンの実施についてです。さまざまなご批判があるかとは思いますが、すでに相談センターで実施を決めておりますので、今日は企画の趣旨や状況をしっかりお伝えして少しでもご理解いただきたいと思います。
昨年度の1000円キャンペーンの総括を6点挙げています。相談件数はこの間で前年より約1000件増えて前年度の2倍になりました。受任率は少し通常時より下げましたが14.8%となり、十分な受任機会提供の効果はありました。相談収入はもちろん下がりましたが、有料率も上がったため35%の減少にとどまりました。相談稼働率は大幅にアップしました。広告費は利用者アンケートの認知媒体をみると効果的な支出にはなっていませんでしたので見直しました。相談センターの広報、相談件数引き上げ、稼働率アップ、事件は配てん増を目的として、後述の他会の相談料設定の実例も踏まえて今年度は2000円キャンペーンとして実施し、数字や効果をきちんと検証してみたいと考えています。
(スライド29)
1000円キャンペーンの効果の一つが有料率アップです。倍くらいになっています。この間法テラスの相談数に変化はないようですので、法テラスから相談者をとったわけではなく、1000円を支払って相談しようという新規顧客が増えたということが推測されます。
(スライド30)
これも相談数増加の効果ではありますが、稼働率も最大2倍まで上がっています。相談枠を増やしたわけではなく通常相談の枠で実施しています。
(スライド31)
あくまで今回は短期的に低額化を行うキャンペーンですが、相談料の低額化についてはいろんな考えがあると思います。参考に代表的な意見を挙げています。
(スライド32)
他会で30分5500円ではない料金体系をとっているものを挙げています。
(スライド33)
無料化と2000円の効果について昨年度ヒアリングした結果を書いています。
(スライド34)
なんばの移転についてです。現状は最初の方で述べたとおりです。移転の問題ですが、現在補償額の提案を受ける段階です。最長でR7.9までしか今の物件を使用できません。賃料増加は必至ですが、下に書いた理由から、移転を前提に検討を進めています。
(スライド35)
e相談について説明します。WEBシステムを通じて文章で相談を受け、2人の弁護士が対応して回答し、5500円の料金をいただいています(クレジット決済で行っています。)。サーバの脆弱性が判明したため早期にサーバ移設を行う必要が出てきました。見積もりをとったところ高額な見積もりとなり、投資判断を求められています。規模は小さいですが、有料相談であり、通常相談では拾えないニーズに適うものですし、相談件数はじわじわ伸びており、赤字になるわけではない事業ではあるので、センターとしては継続を希望しております。
特に、挙げさせていただいた課題3点(2000円キャンペーン、なんば移転、e相談の継続)について、皆様の率直なご意見をいただきたいと思っております。以上、ご報告を終わります。
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